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アメリカの高校教師の作成した秀逸な iPod CM

アメリカに住む36歳の高校教師がプライベートに作成した Apple 社の iPod の CM が好評を博しているとのこと。(Hot Wired Japan 2004.12.16)


確かに、うまい CM ですね。ただ、このようなやり方は下手をすると企業からのクレームにつながるので、難しいところですが。また、この CM の作成者は「完成したCMを公開したのは反応を知りたかった。これを見て自分を採用したい企業があれば、どんな申し出も検討するつもり(Hot Wired Japan よりの引用)」と言っているようですが、これはどうなんでしょう。この高校教師は Apple 社の iPod を好きだからこそ、このような素晴らしい CM を作れたわけです。プロの職業デザイナーとして CM を作るというのは、商品を愛することとイコールではありません。たとえ自分の気に入らない商品でも、その良さを最大限に引き出して大衆に訴えかける CM を作ることができるかどうかで、プロと呼べるか、単なるアマチュアかが分かれるのではないでしょうか。ですから、この高校教師がかりに CM 制作会社に就職したとして、それでうまくいくとは正直思えないのです。

私の教え子の中でも、既に美大を卒業している人たちも多いのですが、その中でいったん就職したのに「自分の好きなことができない」という理由ですぐに職を変えようとしている人たちがいます。はっきり断言します。あなたたち、間違っています。

美術業界の中で「プロ」と見なされたいのなら、自分の気に入らない素材を料理して、最大限の価値を付加できるだけの実力を持ってください。ただ単に自分のやりたいことだけをやって金をもらおうなんてムシのいい考えです。「自分の好きなことができない」という理由で仕事を辞めようとするのは、精神的にアマチュア(=素人よりマシな程度)である証明です。「プロ」と見なされたいのなら、気に入らない仕事の中に自分にしか見いだすことのできない価値を見つけ、それを仕事に反映させてください。そういう意味では、私の知っているほとんどの元教え子は、まだアマチュアとしてしか見なされない程度の精神レベルの人たちです。少なくとも、私から見れば。

私はこの  Smoke Stings Studio で小説を書いたり、翻訳をしたり、時にはデザインをしていますが、その全ては自分のやりたいようにやっているという自覚があります。ですから、私は  Smoke Stings Studioでやっていることのほとんどがアマチュアレベル以下であるということは自覚しているつもりです。美術やデッサンについてこのブログで自分なりに考察したり断言したりすることもありますが、それもアマチュア(=素人)特有の狭いものの見方での考察であることは承知の上です。ただ、そのような狭いものの見方をすることが時には役に立つこともあるので、臆面もなくこのブログで書き連ねているだけです。「海を知る人間は賢者だが、海を語るものは馬鹿だ」とはどこかの作家が言った言葉(「老人と海」?)ですが、私は語っているだけ馬鹿の仲間入りです。

本当に「わかっている」人間は、決して語ろうとしません。なぜなら、「語る」という事自体が、ほとんど無限大なる奥の深さを持った事象を、「言葉」という曖昧で狭い範囲しか切り取ることのできない道具を使って細かく切り出しているに過ぎないということを知っているからです。ひとつのものをどれだけたくさん切り取っても、それをつなぎ合わせて本質を再現することは不可能なのです。

ただし、「切り取る」ことでそれまで見えなかったものが見えてくることがあります。ですから、私はその「切り取る」ことの有効な側面に目を向けて、「切り取る」ことには限界があることを承知の上で言葉で事象を「切り取り」、文章として表現します。ですから、私の文章に対して批判を加えることは、誰にでも可能ですよ。だって私がこのブログで語っていることなど、ひとつの事象を私なりに言葉で「切り取った」にすぎないのですから。ですから、私の文章を批判したい人は、私が「切り取っていない部分」に注目して、私と同様のテーマで文章を書いてみてください。やりたければ、どうぞ。ただし、お互いの「切り取っていない部分」を言い重ねてゆくことの愚かさを自覚した上でやってください(2004年度のブログ オブ ザ イヤーを受賞したかなんだかした2つのサイトがお互いに言い合いをしているのを知っているので、敢えてこんな投げやりな言い方をしています)。そんなことをやっていては、ひとつの事象の本質にはいつまでもたどり着けないはずですから。

「切り取る」のではなく、「受け入る」。それができる人こそ、本当に凄いレベルに達することができる人です。まあ、それができる人には、今までほとんど出会っていませんけどね。ずっと探し続けているんですけどねぇ、そういう人。特に女性。そんな凄い女性がいたら、絶対に一緒にいたい。